キリンの首

『キリンの首』
ユーディット・シャランスキー (著) 細井 直子 (翻訳)
河出書房新社



辛辣。でも主人公は生物学教師で、同性愛者や出産適齢期を過ぎた女性にも手厳しい。
というより人間全体を生物種の中で特別と思っていない。キノコの方が優れている。確かに菌類は生産的だ

面白さや感情移入を意図的に排除して、なおもにじみ出てくる何かを味わうよう小説でした。
わかりやすい感情も説明もなにもない。
現代美術のインスタレーションを見ているよう。
空間に構築された何かをみているんだけど、それが何の意味があるのか、何を伝えようとしているのかは提示されていない
最後に作家のキャプションを読んで、こうかもな、と思う。

多分、子供の頃に読んでもこの教師を生きづらい、不幸な人だと思うだけだったろうけど、
「彼女を好きになってもらうつもりで書いた」という作者の意図は今は分かる
周囲の人、生徒や娘に有害ですらある彼女のぶ厚い自他境界線の中に屹立してある頑なを最後には好きになる
貫かれる距離感が美しいと思う

生物学と一体化したような、夫も子供もいる50代の女性が、生徒の1少女に向ける不可思議な、それは恋だよとか巨大感情だよ執着だよと安易な言葉化ができない、どのラベルもつけられない何か、というのが、生物学と一体化した彼女には決して認識できないのだけど、読者にも易々と理解され共感をえるようなものではないのもいい

楳図かずお先生が、「わかりやすく描いているつもりですが、わからないというのは、それは奥行きなので」と仰っていたのを思い出します。
これは「わかりやすくも書かないし、奥行きがあるかどうかはあなた次第」で
意地悪だけど誠実な小説だと思う


『ハイゼ家100年』とか、延々と単調なモノローグで状況を語っていくの
「すごいドイツっぽい!」ばかっぽいけどほんとそういう感想