エドガルド・モルターラ ある少年の数奇な運命

2023年製作/125分/イタリア・フランス・ドイツ合作
原題または英題:Rapito

マルコ・ヴェロッキオ監督の新作。
公開から時間が経ちましたが、早稲田松竹で見ました。

今年85歳ですがお元気で何よりです。『眠れる美女』がめちゃくちゃ好きです。

 

あらすじ

19世紀イタリアで、カトリック教会が権力の強化のために7歳になる少年エドガルド・モルターラを両親のもとから連れ去り、世界で論争を巻き起こした史実をもとに描いたドラマ。

 

実話ベースですが、エドガルドの両親はユダヤ教徒。
つまり、キリスト教とユダヤ教の対立も背景になっています。
ユダヤ教徒はイエス・キリストをメシアと認めておらず、神とイスラエルの民との契約を守り正しい行いをすることで救いを得られると考えます。
一方キリスト教では救いは信仰によって与えられ、イエスの死と復活を信じることで罪の赦しと永遠の命を得られます。
キリスト教の洗礼を受けずに死ぬと、辺獄(リンボ)というキリスト教徒の地獄に行けないものが行く場所に落ちる(公式協議ではない)と思われており、そう教えられた女中が赤ん坊のエドガルドが病気で死ぬと思い込み勝手に洗礼を施したことが発端となります。

驚きその1

洗礼ってそんな感じでいいの!?

カトリック教会の教えでは、洗礼は一度施されるとその人の魂に「消えない印」を残し、永久に有効とされます。(ChatGPT)

映画中の裁判でも、合意がなく証人が実施者のみでも有効、って言われてました。

ガバガバすぎるだろ!

無断で行われた場合も形式が適切であれば、神学的に有効…
成人には自由意志があるとみなされるので、本人が拒否すればOKだが、子供はダメらしい。

一方で、ユダヤ教徒はユダヤ人の母親から生まれたもの、
あるいは正式な改宗を行ったもの、という規定があります。

なので、エドガルドはユダヤ人の母親から生まれた時点でユダヤ教徒なんですよね。

だから「子どもを取り戻そうとする母」は「ユダヤ教を捨てさせまいとする母」で
母親の愛情の話だと思うとちょっと誤解してしまう。

この、キリスト教とユダヤ教による

魂の奪い合い

 

が根底にあるわけです。
で、それがラストの母と息子につながっていく。

宗教、マジで怖い…

というより宗教と支配欲、権力欲が結びついたやつ…
で、この加害性、暴力性もやはりyの特徴だと思うんですよね。
教義やルールがめちゃくちゃ非合理的なのに
正しいとして支配ツールにするところとか

ピウス9世がエドガルドを叱責して床にキスしろ、
足りないから舌で十字を3回書けといったとこ。
歴代最長在位教皇だけど老害化して死後は市民に棺をテベレ川へほうり込めって襲われます。
カトリック最高峰なのに徳が低い。驚きその2

キリスト教の支配欲、独善的な救済思想は植民地主義や
今日の資本主義、民主主義にもつながるものであり
他の宗教を排他的としながら、
実際は相当に「我々は正しく、愚かで野蛮な他人種・他宗教者は一段下」
とみていることは自覚したほうがいいんじゃないかな~と思います。

一方でアジアの蔑視、暴力、支配欲は対内的に展開される。
こっちも宗教的な背景がないわけじゃないですよね。
宗教怖い