2021/02/08
異端の鳥 感想
映画『異端の鳥』
イェジー・コシンスキー 原作
ヴァーツラフ・マルホウル 監督
チェコ・ウクライナ映画 2019
第二次世界大戦時。田舎の叔母の家に預けられた少年は、叔母の頓死により一人きりで世界に放り出され、旅をし、様々な人と様々な残酷と差別に遭遇していく。
子供が差別、虐待に晒されるという意味では、「サーミの血」や「存在のない子供たち」と同じジャンルですが、圧倒的に残酷で野蛮。
とりあえずのネタバレ感想
「いやちょっと、救いがなくてね。この話を受け止める心の畑が自分にはまだない」
「最後、ハーヴェイ・カイテルとジュリアン・サンズどこにいた!?ってびっくりしたよ」
「あの変態か。ジュリアン・サンズ『眺めのいい部屋』とか出てたよね」
「きれい系だったけどね、ここにきたか。ナイスキャスティング」
「変態(ペドフィリアのサディスト)も怖くて不快だけど痴女(性依存症の獣姦マニア)も怖いです」
「教育と文化がないと娯楽が性欲だけになるということがわかります。村こわい」
「『神聖なる一族24人の娘たち』と同じ、選択肢ゼロの村。もう怖い逃げたい」
「逃げても逃げてもおかしな奴が出てくる。そりゃあ馬にしか話しかけなくなる」
「馬を助けたかったのにね…あんな目に。子供の眼があの眼だもん。あの目で見るぞ※1」
「子どもを性的に搾取するのは言語道断だけど、女子どもと弱者は基本的にモノ扱いなんですよね。その中で互いに暴力を振るう」
「ユダヤ人(明言はしていないが)だから異物として迫害される、というけど、女や子どもや弱者は未発達な社会では異物であり搾取と迫害の対象なんじゃないかと思う。
子どもは大人に、女は男に、男は社会に守られていないと異端であり差別の対象になる。そこにさらに人種って勝手な理由をつけてイジメるのは、知的障害者や足を無くした子どもをイジメるのと同じ」
「その世界ではむろん女も弱者も子供もどの人種も加害者でありうる。被害者も加害者であり、加害はより異物に向かっていく。文化があれば表面的にでも抑えうる本質が剥き出しになる」
「異物を排除するのが人間の本質ってのは今更であって、そんな今更を他人事みたいにいってるのなんだよと思う」
「話が長いって会議から除け者にされる異物扱いを実感したことがない人なんじゃないの。性的搾取される屈辱や恐怖や怒りや絶望も感じたことがないヤツ」
「やっぱり教育が重要。対話がない、本を読まない、想像力がない、暴力と差別が直結する世界」
「橋本治が、平安時代400年で戦争をせず死刑を行わず政敵はイジメ殺していた日本の洗練について『平家物語』で語ってたけど、初めてそうだなって思った」
「まあでも差別の根っこは同じですからね。女は話が長くて会議にいらないっていうやつは時と場所が違えば女を殴るやつと同じところにいるからね」
「あとコサックこわい」
「ロシア許さないってなるよ。そりゃ一生許さないって」
「ドイツも許さんてなる。助けてくれた人いたけどそれはそれこれはこれ」
「子どもの命助けるなんて当たり前ですから。敵も味方も関係ない、どの軍隊も正義じゃない、極悪。巻き込まれた一般人にしたら」
「ナチスって絶対悪の象徴があるからごまかされてるけど」
「東欧の闇が深すぎて。北欧とはまた違う闇なんだよね」
「最終的には『アンダーグラウンド』のクロみたいに『許そう、だが忘れない』になりたいんだけど、なかなかそうはいかない。許すけど忘れないは難しい」
「鳥飼いとか水車小屋の夫婦とか、遭遇しただけで心が壊れそうになります」
「愛してもらえるのかなって思った子どもを単に自分の性欲本位で利用してたのが一番ひどい。求めてたのは性的な触れ合いじゃなく心の繋がりなんだよね。プレゼント作って持って行ったのにヤギと交尾。そりゃゴッドファーザーするって。動物の頭寝室に放り込むって」
「もうあそこで壊れちゃった。成長とか逞しく生き抜くじゃない、何か大事なものを捨てた。老人を殴って物を奪うとか、暴力を弱いものに加える側に回った」
「焼き殺したり目を抉ったりの肉体的暴力シーンより、心のやわらかいところと尊厳を傷つけ取り返しがつかないほど損なう事のほうが残酷。ロシア兵が『目には目を歯には歯を』って子どもに人殺しを正当化して銃を与えるのもダメ」
「あと、『おれも大変だったんだ』ってあんな目にあってきた子どもに言っちゃ絶対ダメなやつ」
「ちょっと見せてきてたもんね、腕。そんなんでいい話で済むと思うなよ」
「けっこう撮影長かったのかな。子どもが太ってきた」
「成長期ですから。飢えの描写がないのはよかった。飢えはつらい」
「歴史から学んでアップデートできないなら、人間もう滅んでもいいなって思いました」
「教育だよ教育、人道教育」
一人で見るのはきついので、誰かと見て言語化することをお勧めします。
しばらく夢見が悪くなります。
補足
・言語はエスペラント語。地域や国を特定しないため
・作者のコジンスキーはこの作品で盗作や虚偽の疑いをかけられた。実際は不明。自殺している。
・JOC森発言の直後だったのでついそちらに話が流れがちに
※1 あの目
エーロ・エリク・ニコライ・ヤルネフェルト「賃金奴隷」(1893)フィンランド アテネウム美術館蔵