2021/09/27
足跡姫と桜の森の満開の下
友達の友達(遠い)がWOWOWで録画してくれた野田秀樹さんの舞台を見ました。
実際の舞台でも見ているのですが、むろん、なまの舞台と比べたら冷凍の解凍のようなのですが、でもセリフや表情が何度も見られるのは補足として違う感慨を呼びおこします。
足跡姫

(宮沢りえ、妻夫木聡主演。18代目中村勘三郎への野田さんの思いがつまっています)
出雲阿国にとりついた「足跡姫」
製鉄所でたたらを踏み、刀鍛冶をし、それにより政治的迫害を受けて将軍を恨んでいる。
将軍の前で踊ることが悲願の姉とその姉を支える劇作家の弟
ラストシーン
「足跡姫はこの世の無限を蹴散らした。だから無限は死にました
代わりに無限に続かない命が誕生したのです…終わりのある命が誕生したのです。そうして命は終わるようになりました
おわり、お、あ、い」「姉さん!!
……幕だ、幕を引いてくれ!
ここで幕が引かれさえすれば芝居になる!
幕の後ろで姉さんはまたけろっと起き上がる! 偽物の死になる!
そしてまた明日も姉さんは舞台に上がる!
姉ちゃん…
僕たちは舞台の上にいなくてはいけない!
何度も何度も!
偽物の死を死に続けなくてはいけない!
だのに姉さんの肉体が、ゆっくり、ゆっくりと、目の前で消えていく
消えていくのが見える
そして消えてしまったものが見える
いなくなってしまった姉さんが見える姉さんはこういうだろう
お前はまだ、なにもつくっていない! なにひとつ作っていない!
よし、だったら姉さんが大好きだった起死回生のすじを、
どんでん返しをつくってみせる!
そこで、姉さんを、生き返らせるよ
姉さんの肉体が消えて、ここで、女歌舞伎の一座も消えてしまうだろう
僕はこの江戸にとどまろう
とどまって、江戸中町広小路あたりに一座をつくろう
なんて名にしよう
……さるわか、猿若座をつくる
そして僕はその初代、猿若勘三郎になる
女歌舞伎は消えたけど、これは大興行部だ!
そしていずれその初代猿若勘三郎の肉体も消える
だが、消えても、消えたのに消えることなく、ずっと続いてみせる!
僕が掘った穴から、地球の反対側から、いづこの御国の故郷から、次々と現れる!
二代目、三代目、いやもっと、六代、七代!いいや、十二、十三、十四、十五、十六、十七、…十八!!!
少なくとも、十八代目までは!
はは、ごめんよ
また大向こうの嫌いな数字の話をしちゃったよ
でもそこできっと、姉さんのひたむきは生き返る
あの、無垢の板で出来た花道の先、
大向こうで、
ひたむきな心は、いきかえる…!
この長セリフを最後に言う妻夫木さん
インタビューで仰っていました。
「今回は何か、花道がずっと続いていく感じが、毎日そういうものを感じながらやれていたんですよ。
遠くに何か、ずーっと続いていく何かがある
そういうものが見えていたような気がしますね」
このストレートな、十八代目勘三郎への思いと、舞台が、役者が大きな物語に繋がって花道をゆくような、それは華やかだけれども枯れたら残らない花の、死んだら消えてしまう舞台の道だけれど、心は生きて、繋がっていく、じぶんはそういう脚本を書く、それが勘三郎さんとの約束で、いやそういう簡単に言葉にできるものではないのですが
泣くよね。ただ泣く。
贋作 桜の森の満開の下

(主演:深津絵里、妻夫木聡 坂口安吾の「夜長姫と耳男」「桜の森の満開の下」に飛鳥と飛騨の国争いと鬼門からやってくる鬼を交えて)
これも、表現者である耳男とミューズの夜長姫なのですが
「好きなものは呪うか殺すか争うかしなければならないのよ」
この創作の厳しさよ
野田さんのインタビュー
「30年前はそこまで考えずに書いていたと思われるところを、ああなるほどこういうふうに解釈できるなと。例えば国をつくるためにはどういうことをしようと考えたのか、とか。自分なりに演出家として深読みは30年経ったのでできています」
「つくる、なににせよ、ものなのか国なのか、なににせよつくる、人間をつくるということに焦点を置いている」
「天皇の御幸と鬼の行列がクロスする瞬間
つまり自分たちが何かをつくる時っていうのは、必ず、作った人間ともう一つクロスするものがある、われわれがつくったがゆえにつくられないで土の下に籠ったもの」
妻夫木さんインタビュー
「あの人は言葉にならない何かを確実に演劇で表現しようとするんです
桜の森の満開の下で、たぶん、お客さん、すべて、理解できないと思うんだけど
その、涙の意味がちょっと、わからないんだけど、泣いちゃった、感動した
野田MAPの作品はどれもこれも全部そうだと思うんだけど
その感動の意味が分からない
言葉がないんですよね
説明できないんですよね
なにが素晴らしかった
それはもう、セットも、美術も、芝居も、表現、いろんなことの表現、桜だとか文化だとか全部素晴らしいですよ、やってることは
みんなが、つくり上げているのは人間なんだけれども
その中で生まれた感動の意味を事細かく言葉で説明しようとしてもできないんですよね
それってすごい、ですよね
説明できないんですよ、見たのに
59公演やった僕でも、説明できないんですよ、
実際、耳男を演じた自分自身も。こういうことで説明したんでしょって、そういう言葉自体が稚拙さと言うかなんだろう、本当に自分の小ささを思い知ってしまうし
うーん、なんだろうね
だからこそ、演劇はほんとうに、すごいな、芝居の力は、って
僕にとっては舞台の上で表現するってこと自体が、桜の森の満開の下にいる気分なので
野田秀樹っていうひとは本当に何を考えているかって僕は全然わかんないけど
やっぱ、天才ですね」
!!!
そう!そうなんです!
なんでかわからないけど心の鍵盤をかきたてられて暴かれて何に感動したのか感動なのかもわかんなくて、ただ、泣くんですよ!
いろいろあって、ただ最後は美しくて、美しいんだけどそれだけなわけがなくて
ただわけもわからず泣くの
演じている側もそうなんだ
そりゃボヤっと五、六回見ているだけじゃあたりまえですよね。
うん。
妻夫木さんはもう、お姉さんとおじさまに愛されます、それは
というゴールデンレトリバーの子犬のような謙虚なかわいさでした。
あと、天海さんの大海人皇子
古田新太さんが「身近にとびきりの王子様いた!」って
遠目でみても美しかったのに画面でアップでみたらフォルムが美しくて気品があってまあ王子様でした!
野田さんの舞台は私は2016年の逆鱗が初めてで、遅すぎて、高校生の時から見ていたという友達が羨ましいのですが、こどもの時は何が何だかわからなかっただろうなと思うと出会うべきものには出会う時期があると感じます。
出会うべきものに出会えるように、年を重ねられますように