2022/03/28
最近読んだもの
ウクライナ侵略戦争から1ヶ月が経過しました。
当初懸念した通り、「善悪や被害加害の応酬がではじめ、複雑化し、人々はマスコミのニュースに飽き始めている」気がしています。
ウクライナとロシアではなくて、大きな主語じゃなくて、子どもが死んでいるんだよ…その点で全おとなが有罪なんだよ…誰が被害者か、そんなことを起こしてはいけないという話なのに。どうぶつかいぎ、読んでください。
「消失の惑星」ジュリア・フィリップス
(早川書房)
カムチャッカ半島を舞台にした、幼い姉妹の誘拐から始まる話。
作者はアメリカ人で、10代からロシアに興味を持ち、モスクワへ留学し、カムチャッカ半島で2年の取材をしてこの作品を書いたと言います。
海を見ている12歳と姉と8歳の妹のシーンから始まり、知らない男性に騙され車に乗せられて携帯電話を奪われて、妹を怯えさせないよう必死で自分を抑える姉の視点から、全く別の人々の生活と感情を描く短編が始まります。
犯人は誰か、少女たちに何が起こったか、ではなく、描かれているのは
「他者を属性化して加害する存在を成り立たせているもの」
です。
犯人への無視ともいえる言及の少なさには
「○○ならターゲットは誰でもいい」という属性加害に対する
「あなたこそ誰でもない」という強い意志を感じます。
他者を属性化して差別し加害する人間こそ個別性のない存在である。にもかかわらず彼らは自分を誇示したがっている。だからこそ、どういう人間かを語る必要も知る必要もない。属性で尊厳を奪われた被害者一人ひとりが尊重されるべき個であるという話の方がずっと重要、という意思。
ニュージーランド・アーダーン首相がテロリストについて語った言葉を思い出します。
「皆さんは、大勢の命を奪った男の名前ではなく、命を失った大勢の人たちの名前を語ってください。男はテロリストで、犯罪者で、過激派。私が言及するとき、あの男は無名のままで終わる」
「塩の湿地に消えゆく前に 」ケイトリン・マレン
(早川書房)
消失の惑星と少し似ています。
女性嫌悪殺人がベースにあるが、犯人自体に全く注目しない。という点で。
被害者のビジョンを見る能力のある被虐待少女が主人公のひとりで、もう一人がNYのアートシーンに搾取され田舎に帰って来た女性、というシスターフッド的な部分もあり、消失の惑星よりライトなミステリではありますが、根底は似ています。
アメリカ作家の作品を久しぶりに読みましたが、こういう傾向はとてもいいことではないかと。刑事が犯人を追い、推理が主になるのではなく、被害者や被害者予備軍が「被害者」ではなく人間として描かれるというのは、良いことだと思います。
「星のせいにして」エマ・ドナヒュー
(河出書房新社)
約100年前、アイルランドでインフルエンザが猛威を振るう中、産科病棟で働く看護師を主人公に、妊婦や医師、周辺人物を描きます。
妊娠出産現場の壮絶さにふるえる…恥骨をのこぎりで切るとかほんと
出産は命がけであり、世界大戦を背景に「女は戦わない」といわれ、死んだ妊婦を思い「女性は命を生むためにずっと命がけで闘っている」という看護師。
友達が「出産は死闘。軽々しく二人目とか言うな」といったことを思い出します。
リン医師は実在の人物だそうですが、進撃のハンジさんをイメージして読んでいました。
「13.67」陳 浩基(早川書房)
上記に比して古く感じてしまいました。古いというか、雑というか、みたいな…