シグルイ

シグルイ 原作:南條範夫「駿河城御前試合」・作画:山口貴由 秋田書店 2003-2010チャンピオンRED連載

 

 

「覚悟のススメ」ちょっと触れて、散様の、兄なのに女体で何の説明もなし!(あとであるけど)に衝撃を受け、シグルイ読んでみました。
こっちの方が自分のジャンルかなと思って。
シグルイってタイトル、無知なのでモンゴル系遊牧民かしらと思ったら葉隠の「死狂ひ」とのことです。おっふ。

 

いやすごかった!! 

こういう漫画がよみたかった!
 

共感やら理解の及ばぬレイヤーにあるものを見たいのです。


徳川忠長(三代将軍徳川家光の弟。幼い頃より優秀だったが将軍職を継げなかった恨みから行状が悪化し幕府により切腹を命じられる)の御前試合で闘う、藤木源之介と伊良子清玄。二人がそこに至るまでの因縁の過去編が全15巻のほぼ全編にわたる

ぶっとび、イカレ、グロリョナエロ描写連続ともいえるのですが、不快にならない。ただただ圧倒され受け入れ賛美してしまう理由は

・男女隔てないエログロ

・消費目的で描かれていない

・笑いでごまかさない

・趣味嗜好を超えた凄み

・絵が超絶うまい

・人体描写が正確で美しすぎる

 

でしょうか

 

美意識がある。

 

ジョジョにもそういうレイヤーの向こう側を感じていたし今も好きだけど、なんかおしゃれ漫画になっちゃったから…受け手の解釈もあると思いますが
シグルイはかわいい絵やらほのぼの二次創作できる作品じゃない。
ゴカムを変態漫画とかいうな!これが本物のへんたいまんがです!

 

原作未読ですが、漫画とは違うエンディングらしく
それではこの残酷描写をどう結末づけるのかと思いましたが、
なんたるスタンディングオベーション!!!!

 

徳川封建制以降、「武人」が「自分の意思ではなく上の人間の命に従うだけの傀儡=侍=はべるもの」となり果てるしかない絶望の話でした!!!

武士(ぶし、もののふ 士は有徳有能の統治階級を意味する)が、侍(サムライ 侍は従う、侍るを意味する)になる。
同じように使われがちだけど言葉の意味が違うんですよね。
戦国時代にいるのは武士で、江戸時代は侍。この変化は大きい。

戦国のあと江戸幕府による太平の世は、圧倒的上下社会

へうげもので、「管理する人間に責を負わせ末端には思考させることなく幼児でいさせよ」と、徳川家康が命じたその「忠義」の狂い

お上に命じられるままに敵の名誉も命も敬意なく踏みつける。
それはサムライではなく傀儡よと。


敵の名誉はおのれの誇り。
それを踏みにじり、切り捨て、残るのは忠義を果たした「自分」という無自覚な地獄のみ

いやいや、明治日清日露第二次世界大戦の兵士や特攻隊とか、まさにこれですよね。

明治以降も徳川封建制は生き続け、新たなるお上に従うだけのサムライ気取りの農民が利用され続けているわけですよ。

それを描き切っている凄み!!!!



源之助が忠長の命令で伊良子を辱めたのを、

本当はやりたくなかったが、徳川が規定するサムライとして「お家=三重さまが体現する岩本家」のため、三重さまとの「勝ったら契りを結ぶ」という約束のため、と絶望のなかですがるのを、三重さまは傀儡になり果てた男への拒否により自害している、この地獄!!!!


三重さま、作品の中でも一二を争うイカレっぷりなんですが、
だからこそ、その三重さまのために自らの「サムライ」を貫くために間違ってしまった清らかな真面目な源之助と、その間違いを押し付けた権力の醜さが際立ちます。

三重様は、伊良子に恋していたわけではないんです。
父・虎眼が命じた公開初夜の際に「男はみな、傀儡」と絶望で死を覚悟したとき、伊良子だけが、虎眼に命じられて性行為をするのを拒否し、結果、三重の自尊心を救った。

階級社会と戦う伊良子は、人間としても男としても相当なろくでなしだけれど、上下権力への追従を拒否する「自由で強靭な精神をもつ人間」なわけです。
正義感や倫理からじゃない。伊良子にそんなものはない。ただ自分の律するところ、荒々しくある美意識によって、他者の支配を拒んでいる。
その「傀儡ではない男」に希望をみているのです。


最強最悪の父・虎眼ですら、大名にへつらいの笑いをする。
伊良子は、巧言で大名をかわすが、へつらい媚びて従いはしない。

三重様にとって、伊良子だけが、傀儡ではない、意志をもつ「士(さむらい)」で、彼女が選びたい男、と無意識の底で知っている。
封建社会、階級社会で「女」は、「権力のある男の持ち物で自由な心が許されない」から、彼女が伊良子を求めるのは、男の持ち物ではなく自由意志を持つ人間でありたい、ということです。
だから、公開初夜に参加したが、誰に何と言われようと仇討をやり遂げようとする藤木源之助が「士」になったのかもしれない、と思い、結婚の約束をした。

しかし、士同士の戦いで勝利した藤木は、命じられるままに伊良子を辱める「傀儡=侍=さぶらうもの」になり果てる。

その絶望で死ぬのです。






ところで、作品中臓物飛び男性器焼き鏝女体切断など虐待描写がたわわななかで
一番衝撃を受けたのは、権左衛門の「素手でのセルフ去勢」です。
覚悟決まりすぎ。

山口先生が原作者南條先生にお会いした際のあとがきなども濃さがぶっとんでいました。
素晴らしい作品をありがとうございました。