2019/03/17
最近見たもの感想1
映画
「たちあがる女」(アイスランド)公開中
カウリスマキが好きな人はきっと好きな映画です。
試写会で見ました。
「独身女性、49歳、養女を迎える」
日本なら、私、お母さんになれるのかしら、子育てって大変、家族って何だろう、みたいな話になるかもしれませんが、全く違う。
そんなベタベタした生ぬるさは一ミリもない。子供自体も最後にちょっと出てくるだけ。それもすごく精神年齢が大人。無邪気かわいいもちもち、じゃない。意思や知性がある顔つきをして、無言で相手を見てくる子供。
そもそも
Kona fer í stríð(原題=Woman at War=戦場の女)
たちあがるじゃないんだよ。
邦題のつけ方がなんかもう、日本的。
女は立ちあがらないものだ、座ってるんだって最初からそういうスタンスです。
なんだかね。
主人公は未来の地球を守ろうとグローバル企業による環境破壊を止めるため、一人でテロ活動をしています。
一人で荒野に赴き、電線を切り、爆弾を仕掛け、鉄塔を切り倒し、死んだ羊の皮を被って警察から逃げます。
立ちあがるどころじゃない。まさに戦い。
自分の行動を正しいと信じていますが、もし自分が逮捕されたら養子に迎えた子供はどうなるだろうと思う。長年子供が欲しくて養子申請してきて、今やっと申請が通ったのに、仕事仲間もおめでとうと祝福してくれて、本当に嬉しい、でも、子供を迎えていいのだろうかと悩む。
だけど信念は曲げない。環境破壊を止めようとするテロ行為へひそかに協力する人もいるし、わからないなりに助けてくれる人もいる。犯人が彼女だとは思わず、経済的な影響や倫理を理由に、テロ行為を非難する人々もいる。
周りの人との関係性がすごくいいです。姉妹や疑似家族、仕事仲間との距離感。
それぞれ自分の主張がある。安易な同意や共感をしない。批判もする。だけど相手を尊敬している。いざという時無言で力を貸してくれる。そういう関係。
トークショーに登壇したアイスランド大使が女性で、男性だと思い込んでいた自分が恥ずかしかったです。駐日も在外も女性大使はけっこういると改めて知りました。
「女性活躍先進国からのメッセージ」とかなんとかイケてないテーマでくくられてたけど、大使は「女性に限った話ではない、人間としての話です」と若干戸惑っていた。本当に。人としてです。
孫がいる年ですと仰っていましたが、さらりと着こなしたミニのレザーワンピースにブーツがすごくおしゃれで素敵でした。夫は医学博士で、仕事を中断して日本へ一緒に来てくれたのだそうです。
「アイスランドではシングルマザーの大統領やレズビアンの首相もいました。現首相も40代の女性です」
知らんかった。
「16年間女性が大統領だったので、その間に育った子供はこの国では男性が大統領にはなれないのだと思っていたのです」
社会的な刷り込みってそういうものですね。
押しも幸せにする、社会全体の責任として子供たちも幸せにする。両方やらなくちゃいけないってのが大人のつらいところだな…覚悟はいいか。あっすみませんできてないがんばります。
「性別というより、一人の人間として真言(マントラ)を持つことが大事だと思います。人から与えられた言葉は自分のものではない」
「政党の立候補者に男女比の不公平があると、ソーシャルネットワークでとても非難されます」
ソーシャルネットワークのソーシャルって社会的って意味だもんな。当然だけど…
日本のソーシャルメディアは村感がすごく強いけど、社会の様相を反映しているからそうなるのだろうな。
「男女だけでなく、LGBTQすべての人に平等な機会を与える社会を目指しています」
「日本の女性は高い教育を受けていて優秀なのになぜかハッピーに見えませんね…そこまで謙虚でなくてもいいのでは」
「アイスランドは小さな社会なので変化が起こりやすく、日本は大きな社会で表面上はうまくいっているので変化は難しいのでしょうが」
言葉に気を遣っていただいて…
大使がものすごく魅力的で、知的で大人で、人としても社会全体としてステージが違いすぎて唖然でした。
社会人として周りを見て、年をとっても非常に視野が狭く幼い人がいると思うことがあります。自分も含めて。
もちろん凄くまともな人もいる。そうでないと回って行かない。
この映画の主人公に対しても日本では「人に迷惑をかけるな。身勝手だ」とかいう声があがるかもしれない。国土や経済力や人口と関係なく小さい。ほんとに小さい。
大使は、主人公の行動を肯定してはいなかったけど
「彼女は自分自身をとても信じて行動している。そこが面白い映画」
公私を交えてそういう感想を言えるのが、非常に大人で人間としてまさに立っていて、
意思を持って動く他者を尊敬する姿勢が、映画中の人間関係と同じ。
すごくいい。
「今年の流行語は”ソロ活動”だね」
「鉄塔倒してから出直してきな、っていうね」
「去年の流行語は”あの目で見るぞ”でした」
「フィンランドのアテネウム美術館、あの目だらけで圧巻だったわ」
「全人口の1%がメタリカのライブに行ったんだって」
「スオミすげーな」
飲んで帰る。