Q:A Night At The Kabuki

 

作・演出 野田秀樹
音楽 QUEEN
出演 松たか子 上川隆也 竹中直人 羽野晶紀

 

生存者が、責めや負い目、恥を感じずにはいられないのは、生き残ることが、他人の命を凌いだことに等しいからでした。たとえ強制収容所を生き延びたにせよ、「最もよき私自身」は二度と帰ってはこなかったのです。 
石原吉郎

 

野田版オペラ「フィガロの結婚」を見た後(村社会のお約束をぶっ壊したね、ってまた震えた)、友達が貸してくれたWOWOW放映版の「Q」を見ました。

去年、東京芸術劇場の舞台で見たのを、セリフや視線をアップで再確認して泣いちゃって、松さんの手紙の朗読を書き起こしたりしてました。

野田さんのインタビューで、シベリア抑留体験を綴った詩人の石原吉郎さんの話が出ていました。

「(石原さんは)大量殺戮というのは、大勢が死んだことよりも、実は一人の人間が名前を持たないまま死んでいることが一番大きいことだと感じると書いていて、
僕は無名戦士というと何か、尊い犠牲になった、美しいとまではいかないけど、殉死に近いようなイメージを勝手に浮かべるんですけど、実はその一人一人が決してそんなことはないんだと思って、そこが、『名前をお捨てになって』と軽々しくいってしまう若い恋人たちの言葉と非常に直接結びついて名前というのは一つ大きくありました」

 

源平合戦を舞台にしたロミオとジュリエットが生き残って、近代兵器戦で収容所に送られ死んでいくロミオが30年後のジュリエットへ手紙を送る。

 

『寒さで体が切り刻まれるたびに、そして眠るたびに、命が食べられていく。
そんな中でどうやって、あなたを愛するという言葉を紡ぎ続けることができるでしょう。
もしかしたらあの愛は、野戦病院のうわごとで、あなたを愛したことなどなかったのではないのか。
いにしえのうるわしの時をさえ疑ってしまう。
愛する力を、今の僕がどうすれば絞り出すことができるでしょう。

あなたを愛する力をください
あなたを愛する力を取り戻したい

果てしもなく故郷から遠い、すさびふゆがれた荒野で、朽ちた木のように横たわる僕に
あなたを愛していたときの力を下さい
そしてどうか、朽木の如く死んでいく私を忘れないでください

どうか、どうか
私を名もない兵士として葬らないでください
あわれんだ瞳で、無名戦士と呼ばないでください

もう二度と私に、


………(この間の松さんの表情…!)


『名前をお捨てになって』


などと、おっしゃらないでください


私には名前があった

ロウミオという名前があった。

一人の名前のある人間として
ここで死なせてください。


ロウミオよりジュリエへ
渾身の愛をこめて

 

シェイクスピアのセリフをこんな風に使うことができるなんて!

そして野田さんの反戦や歴史や人間集団に対する感性がいつも素晴らしくて

本当に心暴かれて号泣してしまう。

 

「でも戦争は終わったのよ!」
「戦争が終わった日に…戦争は終わらない!」 

 

203高地に眠る同胞を思う鶴見中尉の気持ちもなにかそういうものがあるのかもしれません。と思いました。